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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)6307号 判決

原告

西尾フデ

原告

西尾宏子

右両名訴訟代理人弁護士

川谷道郎

被告

右代表者法務大臣

林田悠紀夫

右指定代理人

石田浩二

堀井善吉

横井幹夫

野崎彰

森保夫

長瀬弘行

主文

一  被告は、原告西尾宏子に対し、金九七六万一八三円及びこれに対する昭和六一年八月一四日から支払済までの年五分の割合による金員を支払え。

二  原告西尾フデの請求及び西尾宏子のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中原告西尾フデと被告間に生じた分は原告西尾フデの負担とし、原告西尾宏子と被告間に生じた分は被告の負担とする。

四  この判決は原告西尾宏子の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告西尾フデ(以下「原告フデ」という。)に対し、金七二三万二六七八円及びこれに対する昭和六一年八月一四日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告西尾宏子(以下「原告宏子」という。)に対し、金九七六万一八三円及びこれに対する昭和六一年八月一四日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  被告敗訴の場合には担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告フデは、被告に対し、別表1記載のとおり、昭和四七年一一月一日から昭和六〇年一〇月一六日までの間一一回にわたり、いずれも天王寺郵便局において、合計四〇三万七〇〇〇円を定額郵便貯金(以下「定額貯金」という。)として預入れ、被告に対し、右定額貯金債権を有していた。なお、右債権の昭和六一年三月三一日現在における元利合計金額は、七二三万二六七八円であつた。

(二)  原告宏子は、被告に対し、別表2記載のとおり、昭和四九年八月一五日から昭和六〇年四月二〇日までの間一三回にわたり、いずれも天王寺郵便局において、合計六三二万円を定額貯金として預入れ、被告に対し、右定額貯金債権を有していた。なお、右債権の昭和六一年三月三一日現在における元利合計金額は、九七六万一八三円であつた。

2  原告らは、被告に対し、昭和六一年八月一三日到達した本件訴状をもつて右1の各定額貯金の解約告知をなした。

3  よつて、原告らは、被告に対し、昭和六一年三月三一日現在における定額貯金の元利合計(原告フデについては、七二三万二六七八円、原告宏子については、九七六万一八三円)及びこれらに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和六一年八月一四日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。

三  抗弁

1  有権代理

(一) 原告フデは、昭和六一年三月三一日、浅野賢太郎(以下「浅野」という。)に対し、原告フデを代理して別表1記載の定額貯金(以下「本件定額貯金1」または「原告フデ名義の定額貯金」という。)の解約及び払戻金受領をする権限を授与した。

(二)(1) 原告宏子は、原告フデの実子で同原告と同居生活をしており、同原告に、昭和六一年三月三一日まで別表2記載の定額貯金(以下「本件定額貯金2」または「原告宏子名義の定額貯金」という。)の預入や継続預入の手続を行わせたり、右各定額貯金の定額郵便貯金証書(以下「定額証書」という。)や届出印鑑の保管・管理をすべて任せたりしていたものであつて、原告フデに対し、右定額貯金につき包括的な管理処分権を与えていた。

(2) 原告フデは、原告宏子を代理して、昭和六一年三月三一日、浅野に対し、原告宏子の代理人として本件定額貯金2の解約及び払戻金受領をする権限を授与した。

(三) 浅野は、原告両名の代理人として、昭和六一年三月三一日、大阪東郵便局係員秋山行正(以下「秋山」という。)に対し、本件定額貯金1及び2(以下「本件各定額貯金」という。)の解約告知をして、その各元利合計七二三万二六七八円及び九七六万一八三円の払戻を請求し、右各金員の払戻(以下「本件払戻」という。)を受けた。

2  表見代理

仮に、原告らが浅野に対し、右代理権を授与していないとしても、原告フデは、昭和六一年三月三一日、浅野に対し、原告フデ作成名義及び原告宏子作成名義の各委任状(以下、前者を「本件委任状1」、後者を「本件委任状2」、両者を「本件各委任状」という。)を交付したもので、これにより、原告らは、浅野に本件各定額貯金の解約、払戻金受領に関する代理権を与えた旨を表示したものであり、大阪東郵便局係員は、右授権表示を信頼し、浅野に原告らを代理する権限があると信じて本件払戻をしたのであるから、原告らは、浅野の行為につき民法一〇九条による表見代理の責任を負う。

3  郵便貯金法二六条による正当な払渡

郵便貯金法二六条(正当の払渡)は、民法における債権の準占有者に対する弁済の規定とほぼ同様の趣旨(取引の安全のため弁済した債務者を保護すること)で、郵便貯金の払渡に関し、郵便貯金法またはこれに基づく省令に規定する正規の手続を経て行つたときは、貯金債権は消滅する旨規定している。

(一) 本件各定額貯金の払戻は、正規の手続を経て行われたものである。

(1) 浅野は、本件各定額貯金の定額証書(本件定額貯金1については一一通、同2については一三通)の各受領証欄に「原告西尾フデ(宏子)代理人浅野賢太郎」と署名し、その名下に浅野の印を押捺し、それらとともに、本件各委任状を大阪東郵便局係員に提出して、右定額貯金の解約を告知し、その元利金全額の払戻を請求した。

(2) 定額貯金の払戻金の即時払の払渡は、定額証書の受領証欄に押捺された印影と、定額証書に押捺されている預金者の印鑑とを対照し、相違がないことを確かめたうえ、定額証書と引換えになされなければならないことが法定されている(郵便貯金法五五条、同規則八六条)ところ、本件のように代理人により定額貯金の払戻請求がなされた場合、担当係員は、定額証書の預金者の印鑑欄に押捺された印影と委任状に押捺された委任者の印影とが合致することを確認した上で、定額証書と引換えに払渡をしなければならない注意義務があると解される。

(3) 本件では、大阪東郵便局係員秋山は、まず、本件各委任状に押捺された原告ら名義の各印影が、前記各定額証書の各印鑑欄に押捺されている各印影とそれぞれ合致するかどうか確認したところ、本件定額貯金1の定額証書一一通については、別表1の「証書印鑑欄押印の印別」欄(同欄記載「B」の印鑑が、本件委任状1に押捺された印影と合致する印鑑であり、「A」の印鑑は、右印影と相違する印鑑である。)及び「委任状と証書」欄記載のとおり、三通は未捺印で、その余の八通中二通につき、その印鑑欄に押捺された印影と本件委任状1に押捺された印影が一致することが判明し、また、本件定額貯金2の定額証書一三通については、別表2の「証書印鑑欄押印の印別」欄(同欄記載の「C」の印鑑が、本件委任状2に押捺された印影と合致する印鑑であり、「A」、「B」の印鑑は、右印影と相違する印鑑である。)及び「委任状と証書」欄記載のとおり、三通は未捺印で、その余の一〇通中三通につき、その印鑑欄に押捺された印影と本件委任状2に押捺された印影が一致(右三通中、一通については二個の印影のうち一個が一致)することが判明した。

(4) ところで、郵便貯金規則二三条では、預金者が押捺した印鑑について変更しようとするときは、郵便局の交付する用紙により改印届書を作成し、これに印鑑を添えて、通帳または貯金証書とともに郵便局に提出することとされ、また、同規則六六条の二では、右改印屈出前に貯金の全部払戻を請求するときは、払戻金受領証または通帳に印鑑変更の旨を記載して右届書に代えることができるとされ、さらに、右手続については、郵便貯金取扱手続二四七条一項ウにより、定額証書にあつては、受領証欄の余白の部分に「改印」と書かせ、これを改印届書とする旨規定されている。

本件では、秋山は、前記の、定額証書の印鑑欄の印影と委任状の印影が相違するか、あるいは印鑑欄に押印のない定額証書一九通(原告フデにつき九通、同宏子につき一〇通)については、浅野に対し、改印するものであることを確認したうえ、右各定額証書の受領証欄の余白部分に「改印」と表示して、各定額証書につき改印手続を行つた。

(5) 秋山は、本件各委任状に押捺された印影と、前記各定額証書の印鑑欄に押捺された印影が、一部が当初より一致しており、その余が改印されたことによつて一致したため、本件払戻をなしたものである。

(二) また、本件払戻にあたつて、大阪東郵便局係員に何ら過失はない。

(1) 秋山は、本件払戻をする前、貯金名義人に電話によつて貯金払戻の意思を確認するために、電話番号案内係に、原告ら宅の電話番号を問い合わせたが、判明しなかつた。そのあと、秋山は、浅野から、原告フデが今浅野が勤務する会社である大和信用債券株式会社(以下「大和信用債券」という。)に来ている旨告げられたので、右会社に電話して貯金名義人を呼び出したところ、「西尾」と名乗る原告フデと思われる女性が電話口に出て、秋山の「払戻に応じてよいか」との質問に対し、「出して下さい」と返答し、しかもその電話での応対は、何らの疑念をも抱かせるものではなかつた。また、秋山は、原告フデと同宏子が同姓であり、同居しているものであることを確認していたから、右電話による確認によつて原告らの払戻意思を確認し得たものとして本件払戻をした。秋山の右原告らの意思確認方法は、簡易な貯蓄手段としての郵便貯金においては、貯金名義人の同居の親族が委任状を持たずに払戻を求めて来ることが少なくないから、貯金名義人及びその同居の親族以外の者である他人が委任状を持つて郵便貯金の払戻に来た場合には、貯金名義人の一人である原告フデに対する意思確認行為をすれば、盗難にあつた証書や印鑑が使用された可能性がなくなるので、通常は同居の親族である原告宏子に対する意思確認を不必要となるというべきであること、当時は、大和信用債券の商法の問題性は知られていなかつたことなどからすれば、相当なものであつて、秋山に過失はない。

(2) さらに秋山は、本件払戻に際し、代理人として窓口に出頭して来た浅野に対し、その身元を確認するため、運転免許証の呈示を求め、その住所、氏名、免許証番号等を確認するとともに、同人の勤務先、所在地及び電話番号を聞取り、いずれも本件委任状の裏面に記録している。

(三) 仮に、秋山が、払戻意思確認の際に、原告フデ自身と連絡がとれていたとしても、同原告は浅野を代理人として本件各定額貯金の払戻をする意思を有していたので、払戻を承諾する旨の返答がなされたであろうから、秋山が同原告自身と連絡をとらなかつたこと、本件払戻をなしたこととの間には因果関係がなく、この面からも、秋山には過失があつたとはいえない。

以上のように、本件払戻は、正規の手続に則り、しかも何らの過失なく行われたものであるから、郵便貯金法二六条により正当な払渡とみなされるものである。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1の(一)の事実は否認する。

(二)  同1の(二)の事実は否認する。

(三)  同1の(三)の事実は不知。

2  抗弁2の事実は否認する。原告フデは、浅野から有利な年金で資産を運用するという虚構の事実を告知され、委任状用紙であることすら知らされずに差出された書類に署名したのであり、同原告には、委任状に署名するという意識は全くなく、委任状を浅野に交付したということはできない。

3  抗弁3の事実はいずれも否認し、その主張は争う。なお、代理人による郵便貯金の払戻請求を受けた担当職員の注意義務の範囲は、郵便貯金法及びこれに基づく省令に規定する正規の手続の遵守に限定されるものではなく、その委任状の体裁、定額貯金証書の貯金者の印鑑欄への押捺の有無、受領証欄への署名押印の有無、貯金者印鑑欄の印影と委任状印の同一性の有無、貯金者受領者欄の筆跡と提出された委任状の筆跡、払戻請求があつた貯金の口数、金額、貯金者数、その預入期間、本人と代理人の関係、代理人の地位その他総合的な事情を勘案して、代理人の払戻請求権限、受領権限に疑いのある場合は、積極的に本人にその意思を確認すべき注意義務が存するといわなければならない。

五  再抗弁ないし抗弁に対する反論

1  公序良俗違反

原告フデが浅野に対して本件各委任状を交付した経緯は、次のとおりであり、原告フデの行つた本件各定額貯金払戻に関する代理権授与契約(以下「本件授権契約」という。)は、公序良俗に反するものであつて、無効である。

(一) 原告フデは、昭和六一年三月当時、七六才で、娘の原告宏子と二人で、原告宏子が会社に勤めて得る給与収入で生活していた。

(二) 原告フデは、同月三一日午後一時ころ、一人で在宅中、大和信用債券の炭晃博の来訪を受け、大和銀行本店から来たと称する同人から、「現在の預貯金についてマル優枠を超える部分に対しては、五年間遡つて罰金を取られるから、超過分は年金を受取る方法に切替えたらよい」とか、「当社の年金は元本が保証されており、一年積立で現在加入すれば毎年四回に分けて年金の形で利息を受取れる」などと言われ、話につられて、同人に定額証書を見せると、同人は、会社に電話して上司の浅野を呼寄せ、原告フデに対し、浅野を示して、「絶対に損にはならないからこの人に任せなさい」と言い、原告フデが、右両名に対し、原告らの有する二四通の定額証書を見せたところ、両名から、年金とすることを勧められ、その手続を全部行うとの申入を受けた。そこで、原告フデは、銀行の勧誘する年金であれば有利であると考え、浅野に対し、右定額証書と印鑑を渡すとともに差出された書類に自己及び原告宏子の住所氏名を記入した。

(三) 浅野は、同日午後三時ころ、右各書類と印鑑を持つて原告フデ方を退去し、同日午後九時ころ、炭が、原告フデに対し、「ジャンボ預り証券」なる証書を交付した。

(四) 大和信用債券の業務内容は、顧客が会社に対して任意の期間及び価額を定めて金の売買委託をし、同時に売買代金にあてる代金を委託金名下に会社に預入れることを内容とする、いわゆる「ジャンボ契約」と称する契約を締結させるものである。しかし、同社は、顧客から預つた金員を金地金の購入その他の運用にあてることなく、右金員の六割弱は社員給与その他の経費に、三割は一部顧客との解約解除に伴う預り金の返還に、その残金は社員の飲食費や遊興費にそれぞれ充てていたのであつて、そもそもが詐欺目的の会社であつた。

(五) 原告フデは、前記のとおり、大和信用債券の社員である浅野らから、同社による金員詐取のための右「ジャンボ契約」を締結させられたものであつて、右契約はその目的、手段とも違法で公序良俗に反するものであり、これと一体をなす本件授権契約も、公序良俗に反するものである。

2  錯誤

原告フデは、定額貯金の払戻金を「ジャンボ契約規定」にあるような純金売買委託契約に充当するのであれば、浅野に対し定額貯金払戻の代理権を授与する意思は全くなかつたのであるが、浅野から、郵便貯金のマル優限度枠が改正され、五年間遡つて罰金をとられること、元金保証の年金として有利な資産運用となることを聞かされ、これを真実と誤信して、同人に対し、右代理権を授与したものであるから、本件授権契約は、その要素に錯誤がある意思表示に基づくもので無効である。

3  有過失

秋山が、浅野が原告らを代理して本件各定額貯金を解約して、払戻金を受領する権限を有しているものと信じたことについては過失がある。

(一) 本件各委任状には、以下のように、浅野の代理権限を疑うべき多くの事情が存在した。

まず、本件各委任状は、白紙の委任状であり、委任者署名欄と他の記載の筆跡が異り、委任者の印以外の印によつて印紙割印がされており、原告宏子の貯金については、貯金の口数と委任状の記載が相違していた。また、本件払戻は、同一の代理人と称する者が異る二名の貯金の払戻を請求するものであり、口数・金額とも多く、しかも、預入から一〇数年を経た貯金を含めての一括払戻請求であり、貯金局と払戻局が異り、代理人と称する浅野は、大和信用債券の社員であつた。さらに、委任状の委任者欄の印と定額証書の印が相違するか、証書上の貯金者の印が存在しないものが、原告フデについては一一通中九通、同宏子については一三通中一〇通にも及んでおり、右の定額証書に関する貯金の払戻には改印処理が必要であるのに、本件各委任状には、改印処理に関する事項の記載がなく、浅野は以前の印を持つていなかつた。

(二) 右(一)のように、浅野の代理権限を疑うべき多くの事情が存在し、改印の手続まで要するので、浅野から払戻請求を受けた秋山としては、委任状と定額証書の印が一致する場合よりもいつそう慎重な貯金名義人への委任意思確認をなすべき義務がある。しかるに、秋山には、その委任意思確認の過程において過失があった。すなわち、秋山が大和信用債券に電話をした際、電話口に出て同人と応対した女性は、原告ら以外の第三者であり、秋山の意思確認は、権限のない者を相手にした無意味なものであつたにもかかわらず、これをもつて意思確認ができたと判断した同人には、代理人と称する浅野の勤務する会社に電話した点、秋山が原告らと面識がなく、声音だけで相手を識別するのは不可能であつたうえ、架電先が浅野の勤務会社であることを考慮すれば、自己が意思確認を求めている相手と電話で応答する相手との同一性の確認のためには、応対した女性に生年月日、住所、本籍地、父母兄弟の名前等を問うなどの慎重な方法によるべきであるのに、かかる方法をとらずに応対した相手を原告フデと誤信した点、に過失がある。

4  正当の払渡の不存在

郵便貯金取扱手続二四七条一項ウには、被告主張どおりの規定が存するが、この規定の改印処理においては、払戻請求人が当該貯金の真実の権利者であることが当然の前提となつている。ところで、同一の委任状で数通の定額貯金の払戻請求がされた場合において、定額証書印と委任状印が一部一致し、一部一致しないときは、その一致しない証書についてはその委任状では払戻権限が確認できないので、少なくともその分についてはその委任状では払戻することができないと解すべきである。それにもかかわらず、一致しない印を届出印としている定額証書の改印処理をその場でさせることは、何らの権利の裏付なく改印処理をさせるものであつて、印鑑照合の意味を無にするものである。

したがつて、本件払戻は、正当な手続によつたものとはいえない。

5  秋山の過失と原告らの損害との因果関係

浅野らに騙されたことを確知した原告宏子は、当日の昭和六一年三月三一日の内に警察に対する届出をし、翌四月一日には郵便局への届出をしているのであつて、秋山が本人の意思確認にいま少しの注意を払い、少なくとも即時の支払に応じていなければ原告らの被害は防止できた筈である。

六  再抗弁に対する認否ないし反論

1  再抗弁1の事実は否認する。

2  同2の事実は不知。原告フデは、本件各定額貯金を払戻す意思及びその払戻手続をなす代理権を浅野に授与する意思を形成していたのであるから、仮に原告フデに何らかの錯誤があるとしても、それは、動機の錯誤にすぎない。

3  同3ないし5の事実は、否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因について

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二原告フデ名義の定額貯金の払戻について

1  被告は、原告フデ名義の定額貯金は原告フデの代理人浅野に払渡した旨主張するので、まずこの点について判断する。

〈証拠〉を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告フデは、娘の原告宏子とともに肩書住所地に居住し、大阪市内の会社に勤務している原告宏子の給与収入と、原告フデの厚生年金等で生活していた。原告フデは、昭和六一年三月三一日当時七六才で、耳が遠く、昭和六〇年一二月から動脈硬化、心臓病で入院し、昭和六一年三月二二日に退院したばかりで外出もままならないため、原告宏子が勤めに出ている昼間は、一人自宅に引きこもつていた。

(二)  原告フデは、昭和六一年三月三一日午後一時ころ、一人で在宅中、大和信用債券の社員である炭晃博の来訪を受け、大和銀行本店から来たと称する同人を信用して自宅に上らせたところ、同人から、「当社の年金に加入し、一年置けば、毎年四回に分けて利息がもらえる」とか、「預貯金のマル優枠超過分に対しては五年に遡つて罰金を取られるし、それだけではすまない」などと言われ、年金に加入するよう勧められた。さらに、原告フデは、炭から、マル優枠超過分を見せるよう言われて同人に本件各定額貯金の定額証書(フデ名義のもの一一通、宏子名義のもの一三通)を見せると、炭は、同原告方の電話で、炭の上司である浅野を呼寄せ、浅野とともに、即座に契約することを逡巡している原告フデに対し、翌日から利息が下がるし、年金は会社ごとに割当があるから今日入るようにと執拗に勧誘した。

(三)  原告フデは、右浅野らの説明を聞き、右年金なるものに入ろうと考えたが、足が不自由なため、貯金を引き出しに行けないと言つたところ、右浅野らが代わりに払戻してくると言つたため、これを承諾し、原告宏子に相談することなく、右定額証書と委任状に押捺した原告らの印鑑各一個を浅野に渡して、本件各定額貯金の払戻手続を浅野に任せると同時に、浅野らに言われるまま、ジャンボ契約書と題する書面(甲第七号証)及び本件委任状1(乙第二五号証)に署名・押印し、原告宏子には無断で本件委任状2(乙第二六号証)に原告宏子の氏名を記入して押印し、これらの書類を浅野に交付した。そのあと、浅野は、同日午後三時三〇分ころ、原告フデ方を退去して、大阪東郵便局に赴き、原告フデから預つた定額証書、印鑑、委任状を用いて本件各定額貯金全額(原告フデ名義の定額貯金は元利合計七二三万二六七八円)の払戻を受けた後、前記炭を通じて、原告フデに対し、ジャンボ預り証券と題する書面(甲第八ないし第一四号証)を交付した。

(四)  大和信用債券は、顧客が会社に対して任意の期間及び価額を定めて金の売買と現物の保管管理の委託をすると同時に、売買代金にあてる金員を委託金名下に会社に預入れることを内容とする、いわゆる「ジャンボ契約」と称する契約を締結させることを業務内容とし、同社の社員は、主として六〇才以上の年金生活者を対象として右契約締結の勧誘に当り、その際、右契約の内容を正確に説明するどころか、かえつて、それが有利な年金型預金であるかのような説明をすると同時に、「預貯金があると年金がカットされ、税金がかかる」等、客の無知につけこんで不安をあおるなどの欺罔手段を用いて契約を締結させ、客に多額の金員を交付させていたもので、同社は、顧客から預つた金員のうち、六割弱を社員の給料、家賃その他の経費に、三割を解約に伴う預り金返還の資金に、その余は、社員の飲食代や遊興費に費消して会社ぐるみで組織的な詐欺的商法を行つていたものである。原告フデは、浅野らから、同社による右詐欺的商法の手段である「ジャンボ契約」を締結させられたものである。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によると、原告フデは、昭和六一年三月三一日、浅野に対し、原告フデを代理して原告フデ名義の定額貯金を解約し、払戻金を受領することを委任し、その権限を授与したものと認められる。

2  原告フデは、右授権契約は公序良俗に反する右「ジャンボ契約」と一体をなすもので、公序良俗に反し無効である旨主張するので、この点につき判断する。

前記1で認定した事実によると、原告フデが浅野らの勧誘によつて大和信用債券との間で締結させられた「ジャンボ契約」は、同社の契約締結の目的が、同社の経費や社員の遊興費等に費消するための金員を顧客から委託金名目で集めることにあつて反社会性が強いうえ、その勧誘方法も経済的知識、経験に乏しく、高齢の原告フデに対し、契約内容を信用ある銀行の行う年金型預金で安全かつ有利であるかのように誤信させるべく種々欺罔手段を用いて行つたもので、違法なものであるから、公序良俗に反して無効というべきである。

ところで、原告フデが浅野との間でなした右授権契約は、前記の「ジャンボ契約」に基づき原告フデが大和信用債券に対して委託金として預ける金員を調達する目的で締結されたものであつて、原告フデの右会社に対する契約上の債務履行の手段としての性質を有するものではあるが、原告フデと右会社間の「ジャンボ契約」と原告フデと浅野間の右授権契約は、法律的には別個の行為であり、かつ右授権契約は、貯金の払戻の委任という、それ自体においては、特に不法性を持たない内容のものであつて、公序良俗に反する「ジャンボ契約」との関連は、ただその動機が右契約の履行に充てる金員を調達するためという点に存するにすぎないものであるから、このような授権契約が当事者間においてのみならず、右授権契約の内容とされた貯金の解約及び払戻の相手方との関係においても無効であるというためには、その授権契約締結の動機の不法性、反社会性が授権契約に表示され、その相手方において、右契約が公序良俗に反する動機によるものであることを知り、または知りうべき場合でなければならないと解される。けだし、それ自体は違法性のない法律行為の相手方にとつて、その隠された動機の不法性を一々調査、探求することは困難であり、かかる表示されない動機の不法性の存否によつて法律行為が無効か否かが決せられるとすると、取引の安全を著しく害することとなつて相当ではないからである。

本件についてこれをみるに、前掲乙第二五号証及び乙第二六号証の存在並びに証人秋山行正の証言によれば、浅野が本件払戻に際して、大阪東郵便局の係員に呈示した本件各委任状には、本件各定額貯金の解約及び払戻が、「ジャンボ契約」の履行のためのものであることを窺わせるような記載は全くなかつたこと、本件払戻を担当した大阪東郵便局の係員秋山は、浅野から同人の勤務先を大和信用債券と告げられたが、当時は、前記1(四)のような同会社の詐欺的な実態は社会的に知られておらず、秋山も、その実態を知らなかつたことが認められ、また、本件全証拠によつても、本件払戻に際し、その動機が本件払戻の担当者に対し表示されたことを認めることはできないから、右授権契約が被告との関係においても公序良俗に反して無効であるということはできない。

3  原告フデは、右授権契約は、その要素に錯誤がある意思表示に基づくもので無効である旨主張する。

しかしながら、前記1の認定事実によると、原告フデは本件各定額貯金を払戻す意思及びその払戻手続をなす代理権を浅野に授与する意思を有してその旨を表示したのであり、ただ、それらの意思を形成するに至る動機に錯誤があつたにすぎないものと認められ、かつ、右授権契約をなす動機が授権契約の内容とされた貯金の解約及び払戻の相手方たる大阪東郵便局の担当者に表示されたものと認められないことは前記2で判示したとおりであるから、原告フデは、被告に対し、右授権契約の錯誤による無効を主張することはできないというべきである。

4  以上の次第で、原告フデ名義の定額貯金(元利合計七二三万二六七八円)は、原告フデからその解約、払戻の代理権を授与された浅野が大阪東郵便局で払戻を受けたものであるから、原告フデの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

三原告宏子名義の定額貯金の払戻について

1  まず、浅野が原告宏子を代理して原告宏子名義の定額貯金の解約及び払戻をする権限を有していたか否かについて判断する。

前記二1の事実によれば、原告フデは、昭和六一年三月三一日、浅野に対し、原告宏子を代理して原告宏子名義の定額貯金を解約し、払戻金を受領することを委任し、本件委任状2に原告宏子の氏名を記入し、押印してこれを浅野に交付したものである。

原告フデ本人尋問の結果によれば、原告フデは、原告宏子の実母で、同原告と同居し、原告宏子名義の定額貯金の貯金証書及び届出印鑑を、自己のそれと一緒に管理・保管していたほか、原告宏子名義の定額貯金の預入をするについては、時に原告宏子の代わりに郵便局で手続をすることもあつたことが認められるが、他方、本件各定額貯金のうち、原告フデ名義のものは、同原告がその年金等を蓄えて貯金したものであり、原告宏子名義のものは、同原告がその勤めによる収入を蓄えたものであつて、原告両名間でも両者を明確に区別して取扱つていたことが認められるうえ、前記二1で認定したとおり、原告ら方では、原告宏子が毎日勤めに出て昼間はほとんど留守であるのに対し、原告フデは、日常、家で留守番をしていたことからすれば、原告フデの右定額証書等の管理、預入手続の代行は、単に同居生活を営む親子間の事実上の協力関係に基づく行為に過ぎないとみられることに加え、前記一、二1の事実によれば、原告フデが、浅野に対し、払戻を委任した原告宏子名義の定額貯金は、計一三口、預入金額の合計が六三二万円にも達するものであり、右定額貯金全額の解約、払戻は、原告らの通常の同居生活の維持に必要な範囲をはるかに超えるものであることなどをも考慮すれば、原告フデが原告宏子と同居し、原告宏子名義の定額証書の管理や時には預入手続の代行に当つていたからといつて、原告宏子が原告フデに対し、原告宏子名義の定額貯金について、その解約、払戻等包括的な管理処分権を与えていたといえないことは明らかである。

したがつて、原告フデが浅野に対し、原告宏子名義の定額貯金の解約、払戻の権限を授与したことを理由に、浅野が原告宏子の代理権限を有するとする被告の主張は理由がない。

2 被告は、原告フデが浅野に対し、本件委任状2を交付したことにより、原告宏子が浅野に同原告名義の定額貯金の解約、払戻の代理権を与えた旨を表示したとして、民法一〇九条の適用を主張するが、原告フデが原告宏子名義の定額貯金の解約、払戻につき同原告を代理する権限を有しないことは前記1のとおりであり、前記二1の事実によれば、原告フデは、原告宏子には無断で同原告名義の本件委任状2を作成交付したのであるから、これにより、原告宏子が浅野に代理権を与えた旨を表示したことにならないことはいうまでもないところであつて、被告の右主張は理由がない。

3  被告は、原告宏子名義の定額貯金の浅野への払戻は、郵便貯金法二六条によつて正当な払渡とみされるものであるから、同原告の貯金債権は消滅した旨主張するので、以下この点につき判断する。

(一)  〈証拠〉を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 秋山は、昭和五八年から大阪東郵便局の貯金課課長代理の職にあつて、顧客が貯金名義人の委任状を持参して貯金の払戻を請求した場合、通達に基づき、その請求人が権限を有する代理人であるかどうかを審査、決済していたものであるが、昭和六一年三月三一日、貯金事務終了間際の午後三時五〇分ころ、本件各定額貯金について、代理人による払戻請求であるとして、窓口担当者から、審査、決済方の上申を受けた。

(2) そこで、秋山は、回付された本件各定額証書計二四通と本件各委任状を対照したところ、両者に押印されている印影が相違しているものがかなりあることがわかつたため、貯金名義人の払戻委任の意思を確認することとし、一〇四番の電話番号案内係に原告ら宅の電話番号を問い合わせたが、該当のものが見当たらないという返答であつた。そのため、秋山は、浅野に対し、原告らと連絡をとる方法を尋ねたところ、浅野は、西尾が今会社に来ている旨告げたので、秋山は、原告らのいずれかが、浅野の勤務している会社へ客として行つているものと考え、同人からその連絡先である大和信用債券の事務所の電話番号を聞出し、同社に電話をかけた。

(3) 秋山は、取次を受けて応対に出て来た女性に対し、「西尾さんですか」と尋ねたところ、そのとおりである旨年輩の声で答えがあつたので、原告らとは従前面識はなかつたが、相手が原告フデであると思い、それ以上、電話口に出た女性が真実原告フデであるか否かの確認はしないまま、本件払戻を浅野に委任したものかどうか、浅野に貯金を払戻してよいかどうか尋ねると、相手の女性から「はい委任しました」「はい払い戻して下さい」というような返事があり、その態度に特に不審な点も感じられなかつたため、原告フデが浅野に、本件各定額貯金の払戻を真実委任しているものと考え、同原告に対する払戻委任の意思確認はそれで打切つた。また、秋山は、原告宏子については、原告フデと住所が同一であることを確認しただけで、それ以上、なんら具体的な払戻意思の確認手段をとらなかつた。なお、当日、原告フデないし原告宏子が大和信用債券の事務所に行つたことはなく秋山が電話で話した女性は、原告らとは別人であつた。

(4) 秋山は、次に、代理人として払戻を請求している者が、本件各委任状に記載されている浅野本人かどうか確認するため、浅野に身分証明書及び運転免許証を呈示させ、その住所、氏名、免許証番号、勤務先、その事務所所在地等を確認した。

(5) その後、秋山は、本件各委任状に記載されている定額証書の記号番号と定額証書とを一つ一つ照合し、全部一致していることを確認したうえ、本件各委任状に押捺された原告らの印影と定額証書の各印鑑欄に押捺された印影とを一つ一つ照合したところ、原告フデ名義の定額貯金については、別表1記載のとおり、昭和五五年四月一四日及び昭和六〇年一〇月一六日預入分の二通、原告宏子名義の定額貯金については、別表2記載のとおり、昭和四九年一二月二一日(但し、証書上の二個の印影のうちの一個のみ一致)、昭和五五年四月一四日及び同年一一月二五日預入分の三通については両者の印影が一致していたが、原告フデ名義の残り九通(うち三通は証書上に未捺印)、原告宏子名義の残り一〇通(うち三通は証書上に未捺印)は、印影が相違していたので、この相違分については、特にそれ以上、右印影の相違する理由等を尋ねることなく、改印手続を行うことによつて浅野の払戻請求に応じることにした。なお、郵便貯金取扱手続二四七条一項ウには、請求人から、定額貯金の払戻請求に兼ねて印章変更の届出を受けた場合、定額証書の受領証欄の余白に「改印」と書かせることによつて改印届出書とすることができる旨定められており、秋山は、右規則に従い、浅野に改印の意思を確認したうえ、印影の相違する右各定額証書の受領証欄の余白に「改印」と記入して改印手続を完了させた。

(6) なお、本件各定額証書には、いずれも受取人欄の記載がなかつたため、秋山が浅野にそれらの欄を記入するよう話したところ、同人は、急いでいる様子で、早くしてくれ等といつていたため、秋山において、午後四時を過ぎても当日中に処理する旨説明したところ、浅野は、もう一人の連れを呼び、二人で、右各受取人欄を補充し、その後、秋山は浅野に本件各定額貯金全額を払戻した。

以上の事実が認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(二) ところで、郵便貯金法二六条によつて、当該払戻が正当な払渡とみなされるためには、払戻をなす郵便局員が法令に規定する手続を経たことに加え、払戻請求人に払戻金の受領権限があると信じ、かつ、そう信じることにつき過失がないことを要するものと解されるところ、前記(一)の事実からすると、本件払戻については、以下のとおり、秋山において、浅野が原告宏子を代理して原告宏子名義の定額貯金の解約及び払戻金受領をする権限を有すると信じたことにつき過失があつたものといわざるを得ない。

(1)  本件払戻請求は、浅野が原告ら二名の代理人として原告両名名義の各定額貯金の払戻を請求したもので、その口数、金額(払戻日時点の元利合計額)も、原告フデについては証券一一通で合計七二三万二六七八円、原告宏子については証書一三通で合計九七六万一八三円と相当多数の口数、かつ高額のもので、しかも、それらは、預入期間が一〇年以上にわたる原告らの定額貯金全部の一括払戻請求であつて、日常ひんぱんに代理人によつて行われる少額の貯金払戻請求とは相当異なる事例であるうえ、各定額証書のうち、原告フデ名義のものにつては、一一通中九通、同宏子の分については、一三通中一〇通と大部分のものについてその印鑑欄に押捺されている印影が委任状の委任名義の印影と相違しているか、印鑑欄に印鑑が押捺されていないものであり、その理由について、特に説明もなかつたこと、右印影相違分については、改印手続が必要であるにもかかわらず、改印についての委任もなされていなかつたことなど払戻請求を受けた時点において、本件各定額貯金の払戻請求が、真実、委任者とされた貯金名義人の意思に基づく委任によつてなされたか否かにつき疑念を抱いてしかるべき客観的な諸事情が存在したのであるから、このような場合、払戻請求を受けた担当者としては、たとえ同居の親族とみられる事情があつたとしても、名義人個々に意思確認をすべきであるのはもとより、その意思確認の方法も、右のように、委任の事実の存否について疑念を抱かせる状況が存在する以上、できる限り受任者と称する者の関与を排除して、直接委任者本人の意思を確認できるような方法を講ずべきである。けだし、みずから受任者と称する者の指示する方法にのみ頼つて委任者の意思確認をすることは、悪意ある受任者の作為の余地を残し、委任者の真意を確認できない危険性を伴うからである。

(2)  しかるに、秋山は、貯金名義人が浅野の勤務先の大和信用債券の事務所に来ているとの浅野の言を軽信し(浅野の勤務先の会社まで出向いている貯金名義人が、かかる多数口、かつ高額の定額貯金全部の払戻をみずから行うことなく、会社に留まつたまま、単に取引会社の社員にすぎない浅野に一任したということ自体も甚だ不自然であると思われるから、原告らの所在に関する浅野の言も疑つてしかるべきであつたと考えられる。)、その者の権限に疑いがあつてこれを確認しようとしている当の受任者と称する浅野の勤務先の会社に電話して原告らと連絡をとろうとした点、しかも、連絡先が受任者の勤務先であるし、秋山は原告らとは一面識もなかつたのであるから、電話の相手方に対しては、それが貯金名義人本人であることを生年月日、住所、家族の者の名前など本人でなければ答えられないような事項をまず質問するなどの慎重な方法により確認する注意義務があると思われるのに、これを怠り、電話に応答した女性に「西尾」であるかどうかを尋ねて肯定されただけで相手を原告フデと信じ意思確認ができたと判断した点、さらに、秋山は、原告宏子が原告フデと同居していることを確かめただけで、それ以上、両者の関係につき何ら尋ねることもせず、また原告宏子本人の意思確認の手段を全くとらないままで、原告宏子についても意思確認ができたと判断した点に、原告宏子が真実浅野に対して原告宏子名義の定額貯金の解約、払戻金受領の権限を与えていたか否かの意思確認をなすについて払戻担当者が遵守すべき注意義務に違反した過失があつたというべきである。

(三) したがつて、大阪東郵便局で払戻を担当した秋山には、浅野に原告宏子名義の定額貯金の解約及び払戻金受領の代理権限があると信じたことに過失があつたというべきであるから、同郵便局で原告宏子名義の定額貯金元利合計九七六万一八三円を浅野に払戻したことをもつて郵便貯金法二六条による正当の払渡があつたものとみることはできず、右払戻は、原告宏子に対する払渡としての効力を生じないといわなければならない。

4  原告宏子が、昭和六一年八月一三日到達の本件訴状により、被告に対し、本件定額貯金2の解約告知をしたことは、本件記録上これを認めることができるから、原告宏子は、被告に対し、本件定額貯金2の昭和六一年三月三一日現在の元利合計九七六万一八三円の支払を求めうるものというべきである。

5  遅延損害金の請求について

原告宏子は、右定額貯金の元利合計金に対する年六分の割合による遅延損害金の支払を請求しているが、定額貯金の預入行為はそれ自体商行為に該当するものfile_3.jpgamt BARUURLRR RR BSAIE) etons | unozses |axte akUo| nn PS ELEY noes \feeste [mxena | REAeER [uaoRMRarON |aEaenAOAR >| maar | os | we] maT] x Ea] Ro x wate a paar faa] a DE ad de a ttre ast a {tame + ta SSS see w . “eioce-42s9 | 100,000 | 231,660 res cory a mare T . 190-462 0,000 | ashe | OK re cord el mare SSS SS Seo ee 7 7 ars fare aT z EaT oO cy wate 5 anise sai0ase | 300,000 | 467.981 [XK E RRR al tS SSSase c 1 CO ame eBnons yo BRSooRE. Ben =THEE 2s) ERT (BRE

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四よつて、原告宏子の請求は主文第一項掲記の限度でこれを認容し、原告宏子のその余の請求及び原告フデの請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用し、仮執行免脱宣言の申立は相当でないからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山本矩夫 裁判官及川憲夫 裁判官徳岡由美子)

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